唾液腺は、耳下腺、顎下腺、舌下腺の「大唾液腺」と、口腔、咽頭粘膜表面に多数散在する「小唾液腺」があります。大唾液腺で作られた唾液は、管を通り口腔内に分泌されます。唾液は食べ物を消化したり、口腔内を清潔に保つ作用があります。
唾液腺炎
化膿性唾液腺炎
唾液の分泌量が減ってしまった時に起きやすい疾患で、口腔内の常在菌が唾液腺の開口部から侵入することで発生します。急性の場合は、唾液腺に痛みや腫れが生じ、唾液が出る管の「導管」の開口部分から膿がでたりします。慢性の場合は、唾液腺が硬くなってしまうため、唾液の分泌がさらに低下してしまいます。
治療方法は、急性の場合は、うがい薬などで口腔内を清潔に保つとともに、抗生物質を投与します。慢性の場合で口腔内の乾燥が強い時は、うがい薬の他に人工唾液を使用することもあります。さらに膿瘍を形成している場合には、切開排膿をおこないます。
ウイルス性唾液腺炎
ウイルス性唾液腺炎の代表的な疾患として、流行性耳下腺炎あり、いわゆる「おたふく風邪」と呼ばれる疾患です。原因は、ムンプスウイルスの感染によって発生し、一度かかると免疫ができるため再感染はしません。潜伏期は2~3週間で、幼小児に多いのですが、大人も罹患します。大人の場合、睾丸炎や卵巣炎などの重篤な合併症を起こしやすいので注意が必要です。まれに顎下腺に発症することもあります。また片側だけではなく、数日遅れて両側に発症することが多いのも特徴です。
治療方法は、安静と解熱薬の投与、患部に冷湿布をしたり、うがいをおこないます。感染力が強いので隔離することも考えます。混合感染防止のため抗生剤の投与をおこなうこともあります。
小児反復性耳下腺炎
おたふく風邪を繰り返すような症状が見られる場合があります。その多くが小児反復性耳下腺炎です。唾液腺造影検査により唾液管の拡張が認められます。広がった唾液管内に唾液がうっ滞して感染を反復しますが、大人になるにつれて治まります。
唾石症
唾液腺の中や、唾液腺導管内に結石(唾石)ができることによって生じる疾患で、ほとんどは顎下腺に生じます。唾石は砂粒大の小さなものから数cmに及ぶものまで見られます。唾石の原因は唾液腺導管の炎症や唾液の停滞、さらに唾液の性状の変化などです。物を食べようとしたり、あるいは食べている最中に、唾液腺のある顎の下が腫れて激しい痛み(唾仙痛)が起こりますが、しばらくすると徐々に症状がおさまるのが特徴です。
治療方法は、小さな唾石は唾液腺のマッサージによって、開口部から自然に流出することもあります。口底部の唾液腺導管内にある唾石は、口腔内を切開して唾石のみを摘出します。顎下腺の中にできた唾石は、位置により口腔外から顎下腺ごと外科的に摘出することもあります。
シェーグレン症候群
口腔内の乾燥や、眼の乾燥を主な症状とする自己免疫疾患です。女性に多く、同じ自己免疫疾患である、慢性関節リウマチや、全身性エリテマトーデス、進行性全身性硬化症や、多発性筋炎などの膠原病と合併することもあります。耳下腺や顎下腺が炎症を起こすことによって、唾液腺が萎縮するため、強い口腔乾燥が起こり、これに伴い咀嚼や嚥下、さらに会話や味覚などの障害が起こります。また、口腔内が乾燥するために虫歯になりやすいです。疾患の原因は不明で、根本的治療はありません。口腔内の乾燥に対して塩酸セビメリンや塩酸ピロカルピンを投与して、唾液の分泌を促す処置をおこないます。
唾液腺腫瘍
唾液腺に生じる腫瘍で、耳下腺に最も多く生じ、次に顎下腺および小唾液腺に多く、舌下腺に生じることはほとんどありません。小唾液腺や舌下腺に生じた腫瘍は、口腔内に症状が見られます。一般的に、唾液腺に生じる腫瘍は良性腫瘍が多いのですが、悪性腫瘍の場合もあり、特に舌下腺に生じた場合は悪性腫瘍が多いです。
唾液腺の良性腫瘍
唾液腺の良性腫瘍は、一般に境界が明瞭で徐々に大きくなるため、痛みや神経の麻痺が生じないのが特徴です。多形腺腫と呼ばれる腫瘍がもっとも多く、ワルチン腫瘍(腺リンパ腫)、基底細胞腺腫やオンコサイトーマなどの種類があります。
治療方法は、外科手術により早期に切除が必要ですが、耳下腺の中を顔面神経という顔の筋肉を動かす大切な神経が走っていますので、この神経を保存しながら腫瘍を完全摘出することは簡単ではなく、習熟した医師がおこなわなければなりません。多形腺腫は、稀に再発したり悪性化したりすることがあるため注意が必要です。
唾液腺の悪性腫瘍
悪性腫瘍の場合、進行とともに痛みや神経麻痺が起こるのが特徴です。耳下腺に生じた場合は、耳前部の痛みや顔面神経の麻痺、顎下腺や舌下腺に生じた場合は、舌の痛みや神経麻痺を起こします。高齢者に多く見られ、多形腺腫由来癌、腺癌、腺様嚢胞癌、粘表皮癌、腺房細胞癌と呼ばれるものが代表的なものです。
治療方法は、外科手術により完全に切除する必要があります。他にも放射線治療や、化学療法を併用する場合もあります。また頸部のリンパ節に転移がある場合には、頸部郭清術をおこないます。